第8話「社内報って読まれてるんですか?」

春の午後。あたたかな陽が芝生に差し込む公園のベンチ。
イタルさんは折りたたまれた紙を広げ、眉間にしわを寄せている。
イタ「うーん……」
ニシ「また社内報っすか?」
隣でスマホをいじっていたニシオカさんが、チラッと紙面をのぞき込む。
イタ「なんかね。一生懸命つくってるのに、誰も読んでない気がしてさ……」
イタルさんはしょんぼりとつぶやく。手元の社内報には、プロジェクト進捗、部門紹介、社長メッセージなど、きっちり整った情報が並んでいる。
その横で、アイスクリームをぺろぺろ舐めていたAIちゃんが、ぷいっと顔をそむけた。
AIちゃん「読む気しないもん、そんなの」
ニシ「いきなりやな、AIちゃん……」
AIちゃん「事実でしょ。誰が書いたかもよくわからない。誰に向けてるかも曖昧。感情が見えない。人間って、“体温のない文章”に飽き飽きしてるのよ」
イタ「体温……」
AIちゃん「社内報って、ほんとは会社の“内なる物語”が集まる場所。けど、多くの会社は、“お知らせ”ばっかり羅列して終わってる。そんなの、読まれるわけないでしょ?」
ニシオカはうなずきながら言う。
ニシ「たしかに。イベント報告とか、導入事例とか、言いたいことはわかるけど……“そこに誰がいたか”が見えてこないっすね」
AIちゃん「でしょ?」
AIちゃんはアイスの棒をちらっと見て、軽く舌打ちする。
AIちゃん「たとえばさ、“営業部に新しいシステム導入されました”っていうより、“ゴトウさんが手作業で毎朝やってた発注業務、2年越しに救われました”って書いたほうが、心に残ると思わない?」
ニシ「うわ、それ読んでみたい」
イタルは膝を打って身を乗り出した。
イタ「ほんまや。“ゴトウさんが涙した瞬間”とか、そんなん絶対読んでまうやん!」
ニシ「“ゴトリ劇場”、毎月連載しましょうか」
ニシオカさんの冗談に3人は小さく笑う。けれど、すぐにまたイタルさんは真剣な表情に戻った。
イタ「でもさ。外に出す記事やないからこそ、社内報ってほんまに信頼が試される気がする。身内向けやからって、手を抜いたらバレる。逆に、ちゃんと心を込めたら、いちばん響くんちゃうかな」
AIちゃん「うん、そう。社内報は“社内PR”の核だよ」
AIちゃんは、食べ終えたアイスの棒をぴんと放り投げて立ち上がる。
AIちゃん「社内の誰にどんな顔で届けるか。それを考えられる人が、ほんとの意味で“伝える人”なんだよ」
イタルさんは社内報の紙面を見つめ直す。その目は、さっきまでの自信なさげなものではなかった。
と、そのとき。少し離れた芝生の上で、ひとりの少女が猫にエサをやっている。
金髪マッシュに、黒と白の猫を首に巻いた姿。
彼女は背を向けたまま、まるでこちらをうかがうような気配を残して立っていた。
AIちゃんがぽつりとつぶやく。
AIちゃん「……たぶん、次はあの子の番だね」
イタルとニシオカはまだ気づいていない。
けれど、何かが変わる予感だけは、確かにそこにあった。

▶第9話「短くていいって、ほんとですか?」
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※この物語は概ねフィクションです。実在の人物や組織と関係のある話題もたまにありますが、実際には関係のない話が多分に含まれております。