第9話「短くていいって、ほんとですか?」

午後の芝生。レジャーシートの上に、湯呑とおせんべい。
イタルさんが何かを書いては唸り、また書いては丸めている。
イタ「“短くて伝わる”って言うけどなぁ……削ったら削ったで、なんも伝わらへん気もして……」
ニシ「5枚目っすよ、それ」
ニシオカさんが苦笑しながらアイスティーをすすっている。
ニシ「そもそも“短く”って、誰が決めたんですかね」
???「それ、決めたのわたしかも」
ふいに背後から声がする。
振り返ると、金髪マッシュに黒白の猫を巻いた女性が、レジャーシート端に座り込んだ。
イタ「おお、ゆめちゃん!」
イタルさんがうれしそうに声を上げる。
イタ「紹介しとくと、カスタマーサクセスのリーダー、ゆめちゃんです。うちの“顧客との信頼担当”やな」
ゆめ「ゆめです。PRって話を聞いてて、ちょっと混ざりたくなって」
ニシ「カスサポ視点のPR、聞きたいっすね」
ニシオカさんがすぐに乗っかる。
ゆめ「PRってさ、“伝える”やん。でも、サクセスって“伝わったあとどうなるか”まで見る仕事やん?せやから、“長いけど伝わらない説明”って、たいてい地獄のはじまりなんですよ」
AIちゃんが小さく拍手する。
AIちゃん「その通り。伝わるっていうのは、“言葉が届く”ことじゃなくて、“相手の中で動きが起きる”ってことなのよ」
ゆめ「でも実際、社内でも“結局何を言いたいのかわからん”って言われる資料、めちゃくちゃ多いでしょ」
イタルがうなだれる。
イタ「う……今日それ言われた……“想いはわかるけど、結局どこがポイントなん?”って……」
ゆめちゃんがやさしく笑う。
ゆめ「イタルさんの文章って、熱いし、正直。でも、相手に“ひとこと残す”っていう目線、ちょっとだけ足りてない気がするんですよ」
イタ「ひとこと、かぁ……」
イタルさんはしばらく考え込んで、ポケットから1枚のメモを取り出した。
イタ「これが、今日やっと出てきた言葉や」
そこには、太く丁寧な字で書かれていた。
『信頼を、つくる。』
ニシオカさんがうなずく。
ニシ「ええやん、それ。なんか、芯がある」
AIちゃんも、珍しく真面目なトーンで口を開く。
AIちゃん「短い言葉にできるっていうのは、それだけ“伝える責任”を受け止めてるってこと。言い逃れできない分、覚悟がにじむの」
ゆめちゃんは頷いた。
ゆめ「短いって、軽いことちゃうんよね。“削ったぶん、重くなる”言葉が、いちばん記憶に残ると思う」
イタルさんは深く息を吐いて、メモを見つめた。
イタ「これで、次の資料、組み立ててみるわ。“言葉を削って、信頼を刻む”……って感じやな」
一同「詩人か!」
ニシオカとゆめちゃんが同時にツッコみ、3人とAIちゃんは大笑いした。

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※この物語は概ねフィクションです。実在の人物や組織と関係のある話題もたまにありますが、実際には関係のない話が多分に含まれております。